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プリント基板の裏打ちは音に効く



 SKHP-03X 基板のハンダ面を無酸素銅線で裏打ちしました。裏打ちしていない基板と同じバッテリーでドライブして、聞き比べています。


 「プリント基板の 35μm の銅箔に銅線を裏打ちすると音が良くなる」との説は、1980年頃に読みました。自作のメインアンプの、自作の紙エポキシ基板(あの頃は塩化第二鉄を使って自分でエッチングしていた)で裏打ちを試しました。そして、それからは、基板のエッチングを止めました。どうせ配線するなら、ユニバーサル基板のほうが手間を省けます(あの頃はハンドドリルで、それでΦ1.0の穴を開けるのはたいへんでした)。

 そのユニバーサル基板ですが、1枚か2枚ならよいのですが、3枚以上作るとなると面倒です。20枚を作ったときには、安易にプリント基板を使いました。それでも、銅箔パターンの上から裏打ちはしていて、偉そうに「(裏打ち線は)絶対必要です。パターンは、裏打ち線の接続を示す印刷だ」などと書いていました(記事のP13)。お恥ずかしい。


 オペアンプでスピーカを鳴らそうとの思いつきから始めたパラレル・ワールドも、思いついたときにはユニバーサル基板で配線しました。ところが、想像以上に面倒でした。同じパターンの配線を繰り返すのですが、根気が続きません(編み物ができる人を、私は尊敬します)。

 軟弱な私は、次作からプリント基板に堕落です。そのプリント基板には、メチャクチャ配線の本数があります。オペアンプ1個あたり14本として9個載っていたら・・・、計算するのも怖ろしい。「裏打ち線が必要だ」とは言えません。面倒さの前には、コロリと宗旨変えです。

 それでも、「妥協してはいけない」との良心の声が、心の底から訴えかけます。パラレル・ワールド基板では面倒なので、他の基板で比較しました(『パラレル・真鍮・ワールド』記事の「真鍮基板」の節をご覧ください)。そして、差は聞こえたけれども「それほど違うようには感じません」と、妥協を決め込みました。結局のところ、面倒だと、なんのかんのと言い訳してやらない。

 それなのに、SKHP-03X基板の裏側をみていると、「裏打ち~」との叫びが聞こえてきます。ではなくて、「この本数ならできるのでは?」との思いが首をもたげます。



 で、作りました。ただし、電源ラインだけは手を抜きました。信号系と比べて電源系は配線材による音の違いが小さいことを経験していますし、オペアンプを並列にするときには電源ラインを介した干渉が聞こえますからインピーダンスを下げたくない、と考えたからです。

 と、言い訳をしますが、本音はラインが交差して面倒だからです。


 ところで、何らかの条件を比較するときには、その条件だけを違えて他を揃えることが重要です。複数の要素を同時に違えていては、どの要素が音に影響しているかを見誤ります。SKHP-03X基板の比較でも、使用パーツはすべて同じ、基板以外の配線材も同じです。入力のRCAコネクタからの線を分配し、出力はバナナプラグで差し替えての試聴です。



 また、比べるときには、交互の比較が重要です。何かを変更して「よくなった」と感じても、必ず元の状態を聞いて確認しなければ判断を誤ります。往々にして「変わった」と感じたのに、再度元の状態を聞くと「違ってはいない」と気づくことがあります。「変わった」と感じたポイントが、くり返し聞いても同じように感じられることを確かめます。そのためには、最低でも A-B-A-B と聞いて、差がハッキリとつかめる(あるいは、差がわからないと諦められる)まで確認します。

 この交互の比較は、音の差の記憶に役立ちます。どこかを変更して「良くなった」と感激しただけでは、どの部分がどれだけ違って聞こえたかを確認できていません。「良くなった」ときにも戻して繰り返して聞くと、他にも変わった部分に気づくこともあります。ときには、「良くなった」と感じたけれども元に戻して「他の部分が良くなかった」とわかることもあります。ですから、交互比較をして、どれだけの差かを把握します。



 では、聞いた感想です。裏打ちした基板は、大きな差ではない(SiC-SBD よりは差が大きいかな)のですが、細かいところまで聞こえるような感じがあります。その分、音につやが出てくるというか、響きの鈍さが改善されます。音質的にはそっくりないのですが、裏打ち基板のほうが、聞いていて楽しい。白状しますと、裏打ちなし基板との差が妥協できるほどであったら、「やっぱり、それほど違いませんでした」と妥協するつもりでした。そうなると期待しての比較試聴でしたが、目論見は甘かった。

 最初から妥協するつもりなら、余計な比較などしなければよいのですが。悟りを開けていない。


 さて、2枚を裏打ちして、残りは裏打ちを妥協しようと考えたのは、無酸素銅の配線材が残り少なかったからです。この線は10年以上前に買ったもので、いまでは入手不能です。ギリギリ2枚を裏打ちしたところで底を尽きました。さて、どうしよう。


 ところで、配線材についてです。2001年には「単線であればOK」と記していましたが、その後、いくつかを試しました。もっとも良かったものが、今回も使ったΦ0.5の無酸素銅線でした。被覆をむいて、銅が錆びないように、いわゆるハンダメッキをします。せっかくの高純度の銅なのにハンダを付けるとスズと鉛が加わる、ので嫌だったのですが、違いは聞こえませんでした。まあ、銅の結晶の中にはハンダは入り込まないですし、経験的に導体よりは絶縁被覆のほうが音に影響します。

 ただし、いちいち被覆をむいて外すのは面倒です。それなら、スズメッキ線なら楽だ、と試しました。ところが、音が良くならない。細かいところまで聞こえる感じがありません。これは、線が固いから良くないと考えています。指ではじいたときの音と同じような響きが再生音からも聞こえる気がします。また、ラッピングワイヤーも試しました。これはラッピングに使うための線ですから被覆は簡単に外せる。中身はメッキ線ですからハンダメッキも不要。配線はすごく楽です。けれども、こちらもディテールが聞こえるような感じがありません。却下。とにかく、線は柔らかいことが重要なようです。

 より線もいくつか試みました。こちらは、配線しやすい太さのAWG 26または24サイズですと、長めに被覆を外すのが手間です。むいたときに線が広がったり、切れた芯線が飛び出したりで使いにくい。また、太めの線をバラして何本かを撚ったこともありますが、作業が面倒です(はるか以前に「撚る本数によって音が違う」との説を目にしましたが、私には違いは聞こえませんでした)。でも、より線は固い単線とちがって、裏打ちの効果は聞こえます。配線用材ですから、ある程度柔らかくなるように作られているからだと考えます。


 まあ、なくなったものは仕方がありません。代替品を探します。


 柔らかい線なら、配線材に使っているベルデン BEL-RBT20276 があります。配線材としては素直な音を聞かせてくれます。裏打ちにも期待が持てます。

 ところが、こいつの作業性はめっぽう悪い。被服が薄いのでむきにくい。ワイヤーストリッパーをかなり慎重に扱わないと、極細の線が何本も切れて跳ねます。これを取り除くのが面倒。さらに被服が薄いので、せいぜい5 cm を外すのが精一杯。しかも、細くてねじりにくい。ねじってないと、ハンダメッキをするときに広がってしまう。なんとか2枚を作りましたが、もうやりたくない。



 進行中のバッテリードライブアンプは、SKHP-03X 基板を3枚パラにする計画です。あとの2枚をどうしよう・・・。

 と考えているうちに、3C2V の芯線がΦ0.5 だ!と気づきました。しかも固くない。ただ、外皮とシールドをすべて捨てるのはエコに反します。でも、外皮を外せば簡単にシールドは抜けます。メートルあたり単価で考えればかなり高価となりますが、使うのはせいぜい 2 mです。作ってみると、ベルデン20276 よりはぜんぜん作業性は良い。


(上から)無酸素銅線Φ0.5、ベルデン BEL-RBT20276、3C2V



 ただし、3C2V の芯線のポリウレタン皮膜はそこそこ厚いです。ですので、交差部の配線がやりにくい。ここは、単線で曲げ性がよいので、被覆を取り除いて立体配線しました。短い被覆を残すよりも、作業性アップです。



 無酸素銅線、20276、3C2V でそれぞれ裏打ちした3種で比較試聴です。



 結論から言えば、裏打ちなしと比べれば、どれもよい。微々たる差ですが、針小棒大に言えば、3C2V は明るいというか派手さがあって、20276 のほうがしっとりと落ち着いているというか引っ込んでいる感じです。どちらにするか。もちろん、私は音で選びます!


 と、言えればよいのですが・・・。面倒でないほうにするでしょう。


 最後に、なぜ裏打ち線が良いのか、その理由をでっち上げます。プリント基板の銅箔が固いからだと想像します。なぜなら、固い線だと裏打ちしても、細かいところまで聞こえるかのような透明感のアップが感じられないからです。


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