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高橋和正さんのこと

更新日:1月9日

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 去る2月、大先輩高橋和正さんが旅立たれました。私にとって、スピーカで音楽を楽しめるようにしてくださった恩人であり、多くのことを教えていただいた師匠でした。


 前世紀の頃、スピーカはホーンシステムが最高のものであるとされていました。ウーファの上に、コンプレッション・ドライバにホーンを取り付けたミッドレンジ(スコーカ)とトゥイータを載せ、低音域、中音域、高音域を別々のパワーアンプでドライブする「マルチアンプ」でなければ、まともな音は再生できないとされていました。


 雑誌の記事(ネットのない時代です)に洗脳されていた私も、T社の38センチウーファを納める150 L のバスレフ箱を作り、T社の1インチのコンプレッション・ドライバを載せていました。ホーンは、当初はCキットの石膏固めマルチセルラ型、その後F社、継いでY社のラジアル形状ウッドホーンと買い換えました。

 しかし、ホーンを交換しても、ネットワークを調整しても、ユニットの位置を変えても、マルチアンプにしても、スピーカから再生される音は、とても音楽を楽しめるものではありません。私には、ヴォーカルや、ヴァイオリンやオーボエなどの楽器が「一つの音源」に聞こえず、二つのスピーカから「別々の音源」として聞こえていました。


 狭い部屋に大きなスピーカを入れたのが悪かったのだ。と考えた私は、ウーファとホーンを売り払い、小型2ウェイを買いました。ところが、英国放送局モニタスピーカからも高音域が先に聞こえました。

 スピーカの音に絶望し、コンデンサ・ヘッドホンでレコードを聴く日々でした。


 そんな頃、ラジオ技術のH氏に連れられて横浜に高橋さんを訪ねました。聞かせていただいた10センチダブルウーファ+5センチトウイータ(1998年7月号(p.18~20))の音に、私は、目をみはる、じゃなかった、耳をみはりました。


私が初めて訪れた頃の高橋システム。鳴らされなくなった4ウェイホーンの開口部に、コーンスピーカによるミッドレンジとトゥイータが音源位置を合わせて置かれていた。メインシステムの間にはユニウェーブ・システムが並んでいる。聞かせていただいた“10センチダブルウーファ+5センチトゥイータ”システムも見える
私が初めて訪れた頃の高橋システム。鳴らされなくなった4ウェイホーンの開口部に、コーンスピーカによるミッドレンジとトゥイータが音源位置を合わせて置かれていた。メインシステムの間にはユニウェーブ・システムが並んでいる。聞かせていただいた“10センチダブルウーファ+5センチトゥイータ”システムも見える

 高橋さんのシステムからは、マルチウエイなのに、一つのままに音源が聞こえます。そればかりではありません。ホールを想起させるナチュラルな音場が感じられます。安心して音楽に没入できます!

 

 それからの私は、毎月のように高橋さんのリスニングルームで聞かせていただいていました。その折に出たアイデアが、単発サイン波測定でした。重たいテクトロのストレージスコープ(アナログです!)と、NFのファンクション・ジェネレータを持ち込み、スピーカからの単発サイン波を観測したときには驚きました。高橋さんが、聴感だけを頼りに合わせられていたユニットの音源位置は、単発サイン波によって「正確」であることが確かめられたのです!


 ユニウェーブに至るまでの高橋さんは、30年にわたってホーンスピーカを追求されていました。ところが、目標とされていた、


 オペラの大好きな私は、レコードを聴くときも本物のステージを彷彿とさせるような、歌い手がストーリーの進行に合わせて動き、あるべき位置で歌っているようなステレオ・イメージを再生音でも体験したかった。


音には到達されていませんでした。その定位感・音場感を再現してくれたのが、私も聞かせていただいた10センチダブルウーファ+5センチトゥイータのシステムでした(後年の作ですが、この記事のシステムが近いです)。


 そのシステムは、すべて高橋さんの聴感で作られたものです。

 ユニットの位置をずらしたところで、干渉がありますからクロスオーバー周波数近辺で多少の違いは生じますが、全体としての周波数特性はほとんど変わりません。それでも、聴感的には違うことを聞き分けられ、さらには、最適な音源位置を探りあてられていました。(音源位置に関しては、こちらの記事をご覧ください)。

 -6 dB/oct. のクロスオーバーネットワークも同じです。「ユニットからの音の重なりを小さくできる -12 dB/oct. さらには -18 dB/oct. ネットワークのほうが優れる」との声が圧倒的な時代に、周波数特性では分からない、それらのネットワークの不自然さを聞き取られていました。(クロスオーバーネットワークのひずみについては、こちらの記事をご覧ください)。

 加えて、音のリアリティを高めるデッドマス。低音域の量感が向上されると言われていましたが、それよりも、中高音域の不要音を低減させることが低音域を豊かに聞かせてくれるのだとわかりました。


 そのはっきりとした音像感、音像がもたらす自然な音場感は、私には、かけがえのないものでした。ユニウェーブと名付けられた高橋式システムに追従して、私もスピーカを作りました。そして、いまもユニウェーブスピーカは毎日音楽を楽しませてくれています。


1997年に製作したユニウェーブシステムは今日も音楽を楽しませてくれています
1997年に製作したユニウェーブシステムは今日も音楽を楽しませてくれています

 1990年代に発表された高橋さんと私の記事は、『ユニウェーブ』として一冊にまとめました。高橋さんとアイエー出版さんの許諾をいただいて、ホームページにアップしています。

ユニウェーブスピーカ。本の内容は、T.B.Soundのホームページでご覧いただけます
ユニウェーブスピーカ。本の内容は、T.B.Soundのホームページでご覧いただけます

 最後に高橋さんとお会いしたのは3年前でした。

「ユニウェーブをやっていた頃が、いろいろなことが判っていちばん楽しかったですねぇ。でも、ユニウェーブが広まって、世の中のスピーカ・システムが良くなるかと思っていたけど、そうはなりませんでしたね」

とおっしゃられていました。

「録音した音を再生して比べるだけだから、わからないのですよ。どちらの音か『よい』かを比べるだけで、どちらが『生の楽器音に近いか』なんて聞き方をしていないからですよ」

と応えると、

「そんな変わった聞き方をしているのは、別府さんだけですよ」

と笑っておられました。


合掌。


 

 


 
 

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