ハムノイズが聞こえてしまった
- Toshiyuki Beppu
- 2022年7月21日
- 読了時間: 5分
更新日:2022年12月14日
(ハムノイズについての前回はこちら)

2022モデルの完成だ!
と、コンテストに誘ってくれたS君に送りました。ところが、彼から連絡がありました。
『先日送って頂いたヘッドホンアンプ2022モデルですが、感度の高いヘッドフォンを接続するとブーンというノイズが聞こえます。
また、天板に手を当てるとノイズが大きくなり、ボリュームの位置によってもノイズの大きさが変化します。』
う~ん。チェックが甘かったようです。すぐに送り返してもらいました。ところがところが、戻ってきた2022モデルからハムノイズは聞こえません。
「耳が悪くなって聞こえないのかな。そろそろ引退かな」との思いが一瞬よぎりましたが「『感度の高いヘッドフォン』とあった」と気を取りなおして、「お使いのヘッドホンを教えてください」とレスしました。
すると、オーディオテクニカの ATH-M50x で聞こえたとのこと。調べるとインピーダンス38Ω、能率 99 dB/mW です。たしかに高能率。現用の AKG K242 はインピーダンス55Ωで能率 91 dB/mW。1 mW の入力電力は同じですが、インピーダンスの違いを計算すると電圧は 0.195 Vrms と 0.235 Vrms です。同じ電圧で考えれば、さらに +1.6 dB ですから、9.6 dB の差です。
「聞こえないのはヘッドホンの能率が低かったからだ」と思い直して、「記事を公表するからには最低限のチェックはするべきだ」と高能率のヘッドホンを探しました。みつけたオーディオテクニカ ATH-M60x は、インピーダンス38Ωで能率 102 dB/mW。お安くないので一瞬考えましたが、測定器と思えばお安い。ポチりました。
また、ヘッドホンのインピーダンスが影響を与えているかもしれないとも考えました。インピーダンスが低ければ、それだけ電圧は低く電流が大きく駆動されますから、アンプの動作状態も変わるはずです。
そこで、ゼンハイザー HD 300 を購入しました。インピーダンスは18Ωとかなり低め。能率は 118 dB/Vrms です。単位が違っていますが、同じ電圧の 0.195 Vrms に換算すれば -14.2 dB で 103.8 dB。なかなかの高能率です。

左から、AKG K242、Audio-technica ATH-M60x、Sennheiser HD300
AKGでは聞こえなかったのですが、オーディオテクニカとゼンハイザーではわずかにブーンと聞こえます。対策が必要です。
2022モデルでは、信号系の配線に BEL-RBT20276 を使いました。真鍮基板とふつうの基板の差を聞いてもらおうとのコンセプトからは、他の条件はすべて同じにしたかったのですが、それでも、せっかく作るのですから、よい配線材を使いたい。まあ、ヘッドホン・ジャックが小さくなる分不利なのですから、ここのところは目をつぶりました。
このケーブル、芯線がツイストされてはいるのですが、ロボットケーブルとしての屈曲性を重視しているためでしょう、撚りが強くありません(下図の赤丸)。それと、リアパネルのRCAジャックからEVRまでの信号線も、シャーシに這わせているところはよいのですが、EVR基板の入力部へとつながる空中部を触るとブーンと聞こえます(下図の青丸)。上カバーを閉めればここを触ることはないのですが、それでも、気分的によくない。

そこで、EVRとヘッドホンアンプ基板の間はギュッと撚って(下図の赤丸)、入力線が空中にあるところは撚るのが面倒だったので、3M 銅箔エンボステープ 2245(8 mm幅)を使ってシャーシから等電位のカバー(下の方は空いている)をしました(下図の青丸)。さすがにギュッと撚った線(赤丸)のほうに触れればちょっとブーンは聞こえますが、等電位カバー(青丸)のほうは触れても聞こえません。
なお、エンボステープを追加したことによる音色変化は感じられません。ぐるっと巻いてシールド線状態にしていないから変わらなかったのだと思いますが、一周巻き付けてどう変わるかを聞いてみたい気がします。
それから、ノイズが誘導されるメカニズムを考え違いしていたことにも気づきました。これについては、また後日。

さて、ハムノイズは聞こえなくなったのですが、下カバーを外から触るとブーンと聞こえます。ところが、フロントパネルに触れたらノイズは消えます。これはもしや、とパネルとカバー間の抵抗を測ると無限大。うかつでした。このケースはパネルもカバーもメッキされていますので、単に嵌めただけでは導通しないことがあります。
シャーシとフロントサブパネルの間に、銅箔エンボステープを挟み込んで導通を確保します。シャーシ側のエッジに貼っていますので、パネルを上から押し込むと確実に接触します。これでカバーに触れてもブーンはありません。はがれる心配もありませんし、(UCケースの弱点である)パネルのぐらつきも解消されます。

シャーシ全景を示します。MUSES 72323 と MUSES 03 には、15×10 の真鍮フラットバーをそれぞれに適当な長さにカットした「デッドマス」を載せました。デッドマスは音像定位感を向上させます。載せないままにしておくなんて、もったいない。高さ方向のスペースが減った分、2021モデルより短くなっていますが、それでも効果は聞こえます。

斜めから見ると、EVR-323X への電源コネクタ、MUSES 72323 のデッドマス、OS-CON、MKP1840、MUSES 03 のデッドマス、と高さが揃っているのがわかるでしょう(写真は銅箔エンボステープを貼る前です)。いずれも上カバーとの隙間は 2~3 mm です。

デッドマスは、上から3t のソルボセインに押さえ込ましています。振動で基板やソケットから IC を脱落させないためです。カットしたソルボセインシートを、デッドマス側のフィルムは外さないで、上側の剥離紙のみを外してデッドマスに載せ、上カバーをかぶせます。こうすれば、ピタリと位置が決まります。デッドマス側のフィルムは絶対に外さないこと。こちらもくっつくと、上カバーを空けるときに破壊されるかもしれません。

ノイズを退治した2022モデルをS君に送りました。さて、どんな評価をいただけるでしょうか。
S君の評価は『真鍮基板ヘッドホン・ドライバの音』で!
ハムノイズを防ぐための議論は『ハムノイズと戦わないために その1』に続きます。
(2022.12.14)



