200 V コンセントを使うと音がよくなる?
- Toshiyuki Beppu
- 2021年12月29日
- 読了時間: 4分

オーディオ界には、
部屋に 200 V の電源を引いて、そこでトランスを使って 100 V に下げたほうが、100 V のコンセントを使うよりも音が良くなる
との主張があります。
電柱の上のトランスでは、6600 V の架線電圧から 200 V に降圧させます。この柱上トランスの2次側巻線のセンタタップは、地面に接続されています。この地面につながれたコールドと2本のホットが、単相3線式として建物に供給されます。建物内では、コールドと一方のホットを 100 V のコンセントに供給します。これに対して 200 V は両方のホットから供給されます。

200 V が良いとの説には、「柱上トランスからコンセントまでの何十メートルかの配線がバランスであれば、コモンモードノイズをそれだけ受けなくなる。したがって、100 V よりも 200 V のほうがクリーンである」との説明が添えられているようです。なるほど、この図からは「そうだなあ」と思ってしまいそうです。
しかし、この説明は、以下の重要な点を無視(それとも気づいていない?)しています。
100 V は片側(左側の端子)が文字通りのアースですからシングルエンデッド、200 V は中点がアースですからバランス、にみえます。しかし、バランスは、それぞれのラインとアースの間のインピーダンスが等しくなければ成り立ちません。家の中には多数の 100 V 機器がどちらかのホットにつながれています。つまり 200 V は、そもそもが、バランスにはなっていません。
200 V を 100 V に下げるためにトランスが必要となります。100 V のコンセントから 1:1 のトランスを通すだけでも音は変わります。ですから、「トランスを通したことによる音の変化」と「200 V を 100 V に下げたことによる音の変化」を聞き分けなければ、200 V が良いと判定することはできないでしょう。何十メートルかの“バランスもどき”とシングルエンデッドを聞き分けられる方々は、なぜか、このトランスの音についてコメントをされません。
コンセントの向きを逆にすれば音が変わります。これは機器間のシャーシ電位差が原因と考えます(詳しい議論は『なぜ、コンセントの向きを変えると音が変わるのか』をご覧ください)。いうまでもなく、1:1 であろうと 2:1 であろうと、トランスを通せば機器のシャーシ電位は変わります。この影響も無視されています。ちなみに、トランスを通したことによる音の変化と、コンセントの向きによる音の変化は、まったく別の傾向として感じられます。ですから、シャーシ電位でトランスを通したときの変化を説明することは無謀と思います。
以上、私は音が変わるとの意見を否定はしません。でも、バランス配線だからノイズが減るとの説明は無茶と考えます。
ただ私は、考えただけで音を決められるほどの自信家ではありませんし、そもそもが野次馬ですから、なんでも良いと目にしたり耳にしたら試します。だって、良くなったら嬉しいではないですか。頭で考えただけで音を良くする可能性を捨てるなんて、もったいない。いうまでもなく、説明が付かないのに音が変わることのほうが多いのですから。
さて、私の部屋にはエアコン用に 200 V コンセントがあります。以前に手に入れた絶縁トランスは、4回の引っ越しを共にしてきました。この絶縁トランス、1次側は 0-90-100-110 の1巻線、2次側は同様の2巻線となっています。2次側を直列として、1次と2次を逆に使えば 200 V から 100 V へステップダウンできます。もちろん、聞きました。

結論を記します。
私の部屋では 200 V からステップダウンしたときと、100 V から1:1で絶縁トランスを通したときで、音の差を感じません。
どちらも、絶縁トランスを通したことによる狭帯域感があります。トランスを通さないときにはありません。
このため、200 V からステップダウンするよりも、100 V のコンセントをそのまま使うほうが良好です。
結果は以上のとおりでしたが、『場所による商用電源の音の違い』に記したように、所によって相当に音が変わることを体験しています。100 V のコンセントからよりも、絶縁トランスを通したほうが良かった経験もあります。ですから、私の部屋では悪かったのですが、200 V からのステップダウンが良くなる部屋もあると考えます。
ただし、良くなったとしても 200 V を使ったことがその理由だとは、断定できません。ある条件が音質変化の理由だと特定するためには、その条件だけを違えての比較試聴が必要です。多数のパラメータを同時に変化させているのに、その中のひとつを理由だと決めつけていては、後々の判断を誤ります。
また、「200 V はバランス」との説明は不合理です。なぜなら、バランスとなる条件が成立していません。ですけど、「理論」に納得できるかできないかなど、どうでもよいことです。重要なことは、音が良くなるかどうかです。音が良いほうが、音楽に没入できます。
そうです。音は聞かなければわかりません。聞いてみて、初めて判断ができます。聞かないで「理論的」に決めていると、せっかくの音を良くするチャンスを失います。ひとつひとつ、聞いて確かめる。これが良い音を作るための唯一の方法と思います。