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電子アッテネータ

EVR-323​

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はじめに MUSES 72323

 MUSES 72323は、新日本無線の新たな電子ボリュームICです。機械式接点のガサついた音をなくし、透明感あふれる音色を聞かせてくれたMUSES 72320のさらなる改良版です(写真A)。ネットワーク回路相互の干渉を減らすためにチップ上のレイアウトを大幅に変更し、ICチップ上の直流抵抗を下げるために厚い銅の配線層を追加し、加えて配線抵抗による電位変化を抑えるためにチップとリードの間のボンディングワイヤーを太くするなど、音質向上のためのさまざまな工夫が加えられたICです。

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写真A MUSES 72323

 プリント基板上のパーツ配置では、熱の移動と高周波の輻射は考慮しますが、「電位」を考える必要はありません。プリント基板は良質の絶縁体であり、nA以下のオーダーでは表面のリークを考えますが、パーツの足に電位を加えるとは考えません。ところがICでは、すべての「配線」と「素子」が、シリコンの基盤の上に空乏層を介して載っています。そこでは、空乏層のキャパシタンスを介してすべての配線と素子がサブストレート電位の上に乗った状態です。つまりは、ある素子での電位変化は、キャパシタンスを介してほかの配線や素子へと影響します。MUSES 72320内部のアッテネータを三段の構成とされていることも、信号電位による他の回路への影響を低減するためです。そしてMUSES 72323では、この相互干渉をさらに低減させるため、配線と素子の配置が見直されています。

 また、プリント基板にあっては、パワー回路でなければプリントパターンの配線抵抗を計算に入れる必要はありません。ところがICチップ上における薄膜では、長さはプリントパターンとは比較できないほど短いものであっても、その配線抵抗は無視できないほどに小さくはありません。かといって、プリント基板上のように配線パターンを太くする余裕はありません。厚い銅のレイヤーを加えると製造コストを大幅にアップすると思いますが、それでも、音質のために妥協できないカ所があったのでしょう。

 パッケージのリードからチップまでのボンディングワイヤーも同じです。全ての回路の載るSiサブストレートの電位を定め、信号電位を伝えるワイヤーです。ある回路での電流変化はボンディングワイヤーの抵抗を介して、他の回路の電圧を揺さぶります。そこでの配線抵抗が音質に影響しないはずはありません。

 徹底的な試聴の繰り返しによって、よりよい配置を求め、より効果的な材料を投入して、作りあげられたMUSES 72323です。そのサウンドは、MUSES 72320のディテール再現能力を、さらに一歩、深く掘り下げています。より微細な違いが聞きやすくなった。これが第一印象でした。

 EVR-323は、メーカーがチップに込めた技術と熱意に負けないように、自作派のために作りました。もちろん、MUSES 72323とおなじく、すべて試聴を繰り返して決定しました。MUSES 72320を使用したEVR-3の改良版、EVR-320と合わせてご紹介します。

 

EVR-323 / 320の縦横寸法目標

 EVR-3(写真B)は、セイデンのスイッチに組んだアッテネータの音が目標でした。

 私のアンプのボリュームは、C社に始まり、A社、T社と使ってきました。アンプを作り始めた頃は、ボリュームで音が変わることも知りませんでした。ところが、比較すると、わりあいと影響の大きなパーツです。

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写真B EVR-3 (2012年)

 そもそも、回路的にもっとも音に影響を及ぼす位置、すなわち信号系に直列かつGNDとの間のシャント、に居座るパーツです。そこに、抵抗体の上に可動接点を摺動させる機械構造が載っています。ピンジャックを例にとるまでもなく、接点の接触圧を下げると音もガサツキます。ところがボリュームでは、本質的にこの接触圧を高めることができません。巷でいわれるとおり、軸に取り付けるツマミによって音が変わりますが、音圧による微妙な接触圧の変動を抑えているのではないかと考えます。

 それでも、音量の調節を省略はできません。いろいろと、といっても記憶に残っているのは8種類ほどですけど、比較しました。もっともよかった品は、東京光音のP2511でした(同社のこれより高価なステップアッテネータは試していません)。ただしその中身は“ボリューム”ではなく、プリント基板に構成されたロータリスイッチに、極小の抵抗がハンダ付けされたアッテネータでした。

 もちろんアッテネータも、スイッチによって音は変わります。スイッチのクオリティを高めればそれだけ、ハンダ付けの音に近づきます。

 ロータリスイッチはA社、F社、T社(ボリュームのT社とは違います)と使いましたが、昭和から平成に代わった頃だったと記憶していますが、セイデンを知りました。セイデンのSD-32に抵抗を組んでからは、ボリュームを使わなくなりました(一度だけスフェルニースのコンダクティブ・プラスチックを使いましたが)。アッテネータを聞くと、もうボリュームには戻れません。霞んでいた音が、ぱっとクリアになります。いくらアンプをよくしても、ボリュームで制約されていたことがわかります。

 終着駅は、セイデンSD-45にNS-2Bで組んだアッテネータ(写真C)でした。

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写真C セイデンSD-45にNS-2Bを組んだアッテネータ

 そのアッテネータとの勝負が、EVR-3の目標でした。ですので、EVR-3もSD-45に合わせて縦横寸法を45 mmとしました。ところが、ケースに組み込もうとすると…。

 タカチUCケースの高さ50 mmサイズは、内寸44 mmです。入りません。ですので、高さ55 mmのケースを特注して使っていました。たった5 mmの差なのに…。外寸高さ50 mmのケースに収めるには、パーツ高さは43 mmまでです。基板寸法も±0.2くらいはズレがありますし、私の工作ではパネルへの穴開けも、さすがに1 mmずらすことはありませんが、±0.5 mmの誤差は覚悟です。そう考えると43 mmでもギリギリ。

 さらにいうと、パネルの中心高さにツマミが配置されると、見た目にバランス悪い。50 mmのケース高さなら、少なくとも1 mmは下げたいところです。また、EVRのほうも、中心にロータリーエンコーダの軸がこないと、これまたカッコ悪い。

 ということで、上も下も1 mm削って高さは41 mm。幅は45 mmから広げない。これを条件としました。

奥行きをどうするか

 基板の上下幅を4 mm縮めるだけなら、それほど難しくはなかったのですが、EVR-323ではMUSES 03を搭載することも絶対条件です。EVR-3 はMUSES 72320MUSES 01 / 02で受けましたが、その後に現れたMUSES 03は、さらなるディテールを聞かせてくれるオペアンプです。でも、モノラルです。EVR-3の基板上にパーツを並べてにらめっこしましたが、8ピンDIPのソケットは、どう考えても追加できません。

 それともうひとつ、困ったことがありました。MUSES 72323はプラスのゲイン設定にできることはできるのですが、インタフェース上、プラスにするときにはごく一瞬、数msecの間ですが、音量を下げてから切り替えなければなりません。知らなければディップは聞こえないとは思うのですが、知っている本人は気分がよろしくない。

 加えてもうひとつ、いかにMUSES電子ボリュームといえども、半導体で構成した内部抵抗には特有の音があります(第1図(a))。オペアンプのフィードバック抵抗を外部接続としてNS-2Bを用いると、音の伸びがよくなるだけでなく、グッと色彩感がアップします(第1図(b))。ヴォーカルの表情が豊かになるというか、音に生気を感じさせます。音色の傾向は違うのですが、オペアンプをMUSES廉価版から最高級に替えたくらいの差です。つまりは、内蔵抵抗を使いたくない。

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第1図 MUSES電子ボリュームとオペアンプの接続

(a) 内部抵抗使用 (b) 外部抵抗使用

ボルテージフォロワにすると音が悪い?

 それなら「もともとボリュームなのだから、プラスのゲインは捨てて0 dBまでとしよう」と、オペアンプをボルテージフォロワ接続で試しました(第2図(a))。

 ところが、よくない。MUSES 02を聞いても03を聞いても、MUSESオペアンプの伸びやかな音が失われてしまいます。極言すれば、ふつうのオペアンプ。音楽がつまらない。

 これには、困りました。EVR-3では、そんな傾向は聞こえません。ゲインを0 dBに設定してオシロスコープで確認すれば、MUSES 72320の出力端子とオペアンプの出力端子の信号レベルは同じです。接続はノンインバータですから、ボルテージフォロワになっているはずです(第2図(b))。ですけど、ゲイン設定を-6 dB、0 dB、+6 dBと違えても、音質の差を感じません。

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第2図 電子ボリュームとボルテージフォロワ接続

(a) ボルテージフォロワ接続 (b) 内部抵抗でのボルテージフォロワ接続

 念のためにと、第1図(b)でNF抵抗を2.2k / 220 Ω(+20.8 dB)として試聴すれば、まさしくMUSESの音。スカッと音が伸びます。なら、ゲインを下げるとよくないのか。試しに470 / 220 Ω(+9.9 dB)とすると、かなりボルテージフォロワの音に近づきます。

 えっ!ゲインを下げると音が悪くなる?それにしても、MUSES 72320を使ったときには0 dBでも+6 dBでも音質の差を感じないのに、なぜ、抵抗を外付けにしたときに感じてしまうのか。しばらくの間、悩みました。

 そんなある日、「本当にボルテージフォロワになっているのか」と疑問がわき、MUSES 72320の内蔵抵抗の値を測りました。設定を0 dBとして、第3図(a)のOUT点と(-)点の間です。これがなんと、3 kΩくらいあります。ええっ!

 考えたのですがわからなくて、メーカーに尋ねました。答は第3図(b)です。CMOSスイッチでIC内部の抵抗を切り替えるのですが、このスイッチの抵抗値が大きいとのことです。たしかに、この接続なら抵抗値はゲインに影響しません。なるほど。

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第3図 内部抵抗は?

(a) こうなっているのでは? (b) こうなっていた

 それならと、MUSES 03のボルテージフォロワで、出力と反転入力の間に抵抗を入れると(第4図)、抵抗値によって音が変わります。抵抗値を上げると、徐々に音は伸びやかになります。2 kΩを超えると、かなりスッキリと伸びた音になります。ただし、抵抗を大きくしすぎるとNS-2Bの“巻線サウンド”がキツくなります。巻線抵抗特有の高域のピーク感です。

 なるほど、ゲインで音が変わっていたのではなかったのか。オペアンプの音を考えてMUSES 電子ボリュームは、CMOSスイッチの抵抗値を下げていないとは。脱帽です。

 ベストは3.9 kΩ~4.3 kΩ。この出力端子と反転入力端子の間の抵抗値を変えなければ、ゲインを変更したときの音質変化は聞こえません。

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第4図 ボルテージフォロワに抵抗を使用する

抵抗追加でゲインを設定できるように

 ボルテージフォロワ接続としても、オペアンプの出力端子と反転入力端子の間に抵抗を使うのなら、反転入力端子とGNDの間にも抵抗を入れられるようにすれば、ゲインを自由に設定できます(第4図の点線)。パーツを並べてみれば、41×45 mmにオペアンプ2個とNS-2B 6本なら載せられます。ASCのスペースはないので、基板の裏側に載せます。

 アッテネータで絞っておいて、その後にゲインでは、もったいない気もするのですが、考えてみれば、世の中のアンプはすべてこの構成です。試作基板では聴感上+20 dBとしてもS/Nの悪化はありません。ですので、抵抗を追加して任意にmaxゲインを設定できるバッファ基板としました(写真D)。

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写真D ゲイン設定抵抗を追加できるバッファ基板

基板枚数が増える

 ところで、ゲインを設定できるようにしたために、電子ボリュームICとオペアンプは、別々の基板となります。電子ボリュームICとオペアンプの基板を分けるとなると、その間の接続が必要です。これでまた困りました。基板と基板の間を電線で結べば、信号は、プリントパターンと比べてハンダ付け2箇所を余計に通過します。まあ、ハンダ付けは10カ所直列にしても、私の腕でも音が悪くなったようには感じません。しかし、基板と基板の間にハンダ付けした線を飛ばすのは、みっともない。

 そう考えると、ピンソケットです。ですが、安物のピンとソケットにアナログ信号を通すと、カサついた音になります。RCAピンジャックの、プレスの安物としっかりとした削り出し品の音の差、といえばおわかりいただけるでしょうか。通したくはありません。

 そこで、ICソケットでよい音を聞かせてくれたPreci-dip社の0.76 mmピンのソケットコネクタを試しました(写真E)。これは、よろしい。電線をハンダ付けしたものと差を感じさせないどころか、よりはっきりとした音に感じます。経験的に線は単線で太い方がクッキリとした音像を聞かせてくれます。そう考えればピンは0.7 mmよりも太い。ついでに、磁石に反応しないのも気分がよろしい。細かいことをいえば、線が固いと変な響きが加わりやすいのですが、聞いたところは問題ありません。これにします。

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デジタル部も分離したい

 EVR-3では、45×45 mmの基板にオペアンプと電子ボリュームIC、そしてコントロールするためにPICマイコンを同居させていましたが、このPICマイコンを停止させると、わずかに測定上のノイズが減ります。ですので、ノブを操作して、あるいはリモコンでコマンドを送った2秒後に、マイコンがスリープするようにプログラムしました。

 ですから、音量を切り替えるときもマイコンは遠ざけた方がよいに違いない、と考えて、それと、アンプケース内での配置を考えると、電子ボリューム本体にノブが付いている必然性はありません。操作部を分離すれば、電子ボリュームを自由に配置できます。

 というわけで、マイコンを載せるコントロール基板を分離させました。ただし、分離した効果は聞こえませんでした。マイコンの動作はボリュームを動かしている間だけですし…。

 

基板構成

 以上、EVR-323 / 320は、パネル側からコントロール基板、アッテネータ基板、バッファ基板、そしてレギュレータ基板の4段構成としました(写真F)。この構成なら、オペアンプ(バッファ基板)を取り替えることも、バッファレス構成(オペアンプなし)とすることも、レギュレータを外部で構成することも、自由にできます。

写真E 基板間接続にPreci-dip社0.76 mmピンを採用した(アッテネータ基板)

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写真F 4枚の基板としたEVR-323 / 320標準構成

電源電圧

 EVR-3では、既存アンプのボリュームを置き換えられるようにと、使用電圧を±12 V以上としました。多くの方にお使いいただけるように、と考えたつもりでしたが、ほとんどの方は新規製作に用いられたようでした。それなら、電源電圧を低く設定する意味はありません。

 MUSESオペアンプも電子ボリュームICも、電源電圧を高くした方が、見透しがよくなるというか、伸びのよい音を聞かせてくれます。まさか12 Vを15 Vに変えたくらいで、と思っていましたが、その差は聞こえます。1 Vでも2 Vでも高くした方が、よりクリアに聞こえます。ICには半導体で作られた抵抗の電圧依存性があり、この影響が電源電圧を高くすることによって相対的に小さくなる、との説明を聞いたことがありますが、私には確かめるすべはありません。

 MUSES 01 / 02の絶対最大定格は±18 Vですので、供給電圧が約±16 Vとなるようにしました。レギュレータ基板へは±17~25 Vを供給します。

 

デジタル系電源の分離

 これも既存ボリュームの置き換えを楽にしようと考えた結果だったのですが、EVR-3ではデジタル系電源を、アナログのプラス電源から供給していました。これを分離すれば、より明解な、はっきりとした音になることは判っています。ですので、EVR-323 / 320では、デジタル系電源別供給を標準としました。

 しかし、デジタル系電源とはいえ、ここにスイッチングレギュレータからのラインを引き込まれれば、ノイズは増加します。そんなことをされないようにと、デジタル系専用のトランス基板SK-EVR-VDDを用意しました(写真G)。豊澄のHP-510を使用します。基板には、センタタップ整流回路とフィルタコンデンサと、さらにはEVR-323 / 320では使いませんが三端子レギュレータも載せられるようにしてあります。

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写真G デジタル電源専用のトランス基板SK-EVR-VDDに豊澄HP-510トランスを使用

レギュレータ

 レギュレータ回路を第5図に示します。シャント・レギュレータTL431をTO-252パッケージのNJM7400に変更した点を除き、基本構成はEVR-3と同じです。回路図上の違いは二カ所。

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第5図 EVR-323 / 320レギュレータ回路

 一カ所は、NJM7400の基準電圧にパラに入れたキャパシタです。第6図のC1とC2です。NJM7400のデータシートをみたときに、なぜ今まで気づかなかったのか、と思ったのですが、試すと想像どおりです。これは効きます。シリーズ・レギュレータも基準電圧となる電圧制御トランジスタのベースにもキャパシタを入れていますが、これと同じく、より細部をはっきりと聞かせるようになります。

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第6図 NJM7400回路構成例(許可を得て転載)

 こんなところにキャパシタを入れるのは私くらいでしょうけど、音的には、入れないのはもったいない。クリアに、より細かいところまで見透せるようになります(写真H)。

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写真H 基準電圧安定用ASCを搭載したアドバンスド・レギュレータACを用いた構成

 もう一カ所は、これもまたNJM7400のデータシートに示されていますが、第6図のSBD1とSBD2の電圧出力とGND間の逆方向ダイオードです。これは電源OFF時の破損防止用ではありません。「音をよくするおまじない」としか説明のしようがないのですが、音のディテールをよりはっきりとさせる効果があります。そして、この逆方向接続ダイオードも整流ダイオードと同じく、モノによって音を変えます。新日本無線のNJD7002を用いました。

 余談ですが、NJM7400のデータシートの第6図には『■回路構成例 ●オーディオ用シリーズレギュレータ回路』とあります。が、この「シリーズ」は「シャント」の誤記ですね。

 音像の実在感からは、とくに低域のガッチリとした押し出し感で、シャント・レギュレータとしたいところです。しかし、供給電圧によって回路定数の調整が避けられません。手軽に使っていただくため、EVR-323 / 320 ではシリーズ・レギュレータとします。

アドバンスド・レギュレータと標準レギュレータ

 ところで、いくら音のためとはいえ基準電圧キャパシタと逆方向ダイオードは、かなりなコストアップを招きます。ですので、レギュレータ基板にはASC X363をフル装備したアドバンスド・タイプACと、基準電圧安定用 X363 と逆方向 NJD7002 を省いた標準タイプNCを用意しました(写真I)。

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写真I 標準レギュレータNCを用いた構成

 省いたといっても、これらは巷の“ふつう”のアンプには入れられていないパーツです。そして標準レギュレータNCも、“ふつう”の1.6 tプリント基板に三端子レギュレータを用いたりはしていません。NJM7400シャント・レギュレータを用いた基準電圧を採用しています。また、どちらもプリント基板は同じものです。とりあえずNCを購入されて、あとから自分でパーツの追加も可能としています。

基板厚み

 プリント基板の剛性は、ざわざわした感じを抑え、明確な音像イメージに効きます。

 EVR-3では、最初期のロットは一般的な1.6 tのガラスエポキシ基板としていました。基板剛性が音像の明確さに効くことは体験していましたが、柔らかなエポキシ基板です。たかだか0.4 mm厚くしたくらいでは変ることはないだろう、とも思ったのですが、試すと、なんと、聞こえます。2.0 tのほうが、わずかですが、クッキリ聞こえます。これは採用しないわけにはいきません。

 さらに試したくなり、2.5 tも作りました。よりカッチリとはするのですが、1.6 tと2.0 tの差に比べると2.0 tと2.5 tの差は大きくありません。

 あるとき、「固くはないエポキシ基板の厚みを増すよりも、真鍮板のパネルを作ったらどうだろう。アンプの基板も、取り付けるシャーシで音は変わるから」と余計なことを思いついてしまいました。で、思いつくと試さないではいられない。その結果、EVR-3 ver.2には真鍮3tのフロントパネルを採用となりました(写真J)。これは効きます。金属板ですから、エポキシ板と剛性は比較になりません。基板の厚みどころではない、しっかりとした音像を聞かせてくれます。

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写真J 真鍮プレートを備えた EVR-3 type II(2017年) 

 ところが、白状しますが、EVR-3のM2スペーサ3本では、真鍮スペーサの効果を発揮させるには不十分でした。M3スペーサにすると、さらに効果が聞こえます。

 以上のいきさつでもって、EVR-323 / 320は、2.0 tのプリント基板を4本のM3スペーサで真鍮3 tフロントパネルに固定する構造としました。デジタル回路の載るコントロール基板を飛ばして、電子ボリュームICの載るアッテネータ基板を真鍮パネルに直接固定します。

 余談ですが、プリント基板の銅箔の厚みも一般的な35μmと倍の70μmを比較しました。こちらは幸いなことに、違いは聞こえませんでした。助かった。2.0 tでこれをやるとなると、めちゃめちゃコストアップになります。それよりは、プリントパターンを洗練するほうが、音を変えます。

 

プリントパターン

 新日本無線のアプリケーションノートには、「REF端子間をプリント基板上ですぐに接続するな」と書かれています。REF端子は、IC内部のアッテネータのGNDです。まさか。アナログのGNDなのですから、できるだけ広いGNDプレーンにしっかりと接続した方がよいに決まってる。と盲信していましたが、私は、試しもしないで否定できるほど楽天的ではありません。

 で、試聴すると、違います。基板上の、わずか1 cmほどのパターンですが、音の混濁感が減るというか、クリア感を増やします。う~ん。不思議です。でも、聞こえるから仕方ない。

 

電源ライン

 レギュレータ基板からの電源ラインは、オペアンプ(バッファ基板)と電子ボリュームIC(アッテネータ基板)に、それぞれ接続しました(第7図)。さらに、パスコンをそれぞれのICの近傍、つまりはバッファ基板とアッテネータ基板上(のハンダ面)に、ASC X363を配置しました。ラインを分けたこととパスコンをICの近くに配置したことを分けて試聴していませんので、どちら(両方?)が効いたのかはわかりませんが、楽器の音色が豊かになります。聞いていて楽しい。

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第7図 電源の供給ライン

その他の改良点

 音には関係しないのですが、取り扱いと組み立てをよくするための改良も加えました。

まず、レギュレータ基板と電源を接続する電源コネクタは、ソケット側のピンに予め線を取付けました。手間のかかる配線作業をなくすとともに、接触不良の心配をなくします。

 つぎに、真鍮プレートのパネルへの取付けネジ穴をギリギリまで中心に寄せました(写真K)。これによって、直径20 mmのツマミで取付けネジを隠せます。写真Hの左側のEVR-BALCONに取り付けたツマミが直径20 mmです。また、ネジも頭の直径5 mm、厚み0.8 mmの薄型小頭ネジを標準付属しました。面倒な皿穴加工をしなくても、ツマミをパネルに近接して取り付けられます。

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写真K EVR-323 / 320とパネル取付穴

 さらに、コントロールICのプログラムを改良しました。EVR-3ではアップ/ダウン・クリックさせたときに、ときどき音量レベルが変わらないことがあったのですが、この読み飛ばしを減らして操作性を向上させました。また、コントロール基板にスイッチを設けて、クリック毎の音量調整量を-1 dBと-2 dBに設定できるようにしています。それから、抵抗を取り付けてプラスゲインを設定したときのために、最大減衰量を-60 dBと-80 dBに切り替えられるようにしています。

 EVR-BALCON ver.2(写真L)やEVR-DISP ver.3 などの周辺デバイスへの接続コネクタはMolex Picoflexを採用し、コネクタがEVRから飛び出さないようにしています。

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写真L EVR-BALCON ver.2

妥協点:カップリング・キャパシタ

 以上、EVR-3でできなかったこと、EVR-3を作ってから気づいたこと、EVR-323の試作をつうじた改善、と音をよくするところを述べてきました。ところが、じつのところ、いちばん頭を悩ませたのが、音を悪くさせないことでした。

 EVR-3では、OS-CONの無酸素銅リードタイプ、SPシリーズ(一部ロットでは、ブラックゲートBG-FK)を使用しました。私の好みとしてはOS-CONよりもBGの図太い低域感なのですが、残念ながらブラックゲートは消えました。そして、紫色のスリーブをかぶっていたOS-CONは、ノンスリーブの極性表示が紫に印刷された現行製品となりました。特性はよくなっているのでしょう。が、音には、金属質のピーク感がつきまといます。

 OS-CONもまだ在庫はあるのですが、製造終了から15年以上経過しています。これから20年は使って戴ける製品としたいところに、半導体はともかく、15年も経過したケミコンを使うのは、ちょっと…。海神無線は「OS-CONに関しては、30年経ってもトラブルの話はありません」と言われるのですが。

 ですので、製造中の品で、有機高分子を中心に代替となるキャパシタを探しました。が、いずれも特徴的な音があり、OS-CON SPやBG-FKに及びません。ですけど、これを見つけなければ、EVRを完成できません。

 カタログを見てはサンプルを取り寄せ、試聴して、却下。を繰り返しました。

 アンプは、スイッチを入れた直後と暖まったときで音が違います。たしかにトランジスタもオペアンプも温度によって音は変わります。ところが、アンプ全体としての音の差に比べればわずか。あの音の差の大部分は、ケミコンに起因します。

 ケミコンは、電源投入からしばらく音を変化させます。これは、温度によるものではなく、通電状態が続くためと考えます。なぜなら、真夏であっても通電直後と部屋のクーラーが効いてきたときとで音が違うからです。

 とくに初めての通電の、最初の2~3時間は激変します。モノにもよりますが、24時間とか48時間あるいはそれ以上、徐々に音はトゲトゲしさを消してなめらかになり、聞き疲れしなくなります。ただし経験上、2~3時間を経過した時点で耳についた特徴的なピーク感は、いつまでも消えません。

 パスコンで比較するなら、電源を入れてほっとけばいいので簡単ですが、今回はカップリングです。信号を入れていないと音は安定しません。鳴らしている回路に並列に接続して、3時間以上、信号をとおしてから聞きました。面倒な手順です。

 そうやって、聞いた瞬間に却下となったのが12品種。数時間は聞いたのが3品種。聞いているうちに気づく耳を突く音もあります。

 唯一、2週間、聞いていた品です。かすれたような音があって、やや透明感に劣るのですが、変なピーク感がなく、低域から高域までのバランス感は悪くありません。これならなんとかイケる、と選びました。正直なところニチコンRNS は、OS-CON SPと比べ、引っ込み気味というか、音が霞む感じがします。

 それでも、できあがったEVR-320-02は、OS-CON SPを使ったEVR-3-02を上回ります。細かな改善を積み上げた結果です。

 だけど、やっぱりOS-CONがいい。というワガママな人のためにOS-CONカップリングオプションも用意しています(写真M)。在庫限りの限定です。

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写真M OS-CON をカップリングに用いた EVR-323OS

 写真NにEVR-323-03-ACを用いた電子アッテネータを示します。製作記はこちら

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写真N EVR-323-03-ACを用いた電子アッテネータ

参考資料

1) 新日本無線、NJM7400データシート

2) 新日本無線、MUSES 72323 Application Note

​(掲載 ラジオ技術2021年1月号)

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