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EVR-320 を使用した

ミニマルコスト電子アッテネータ

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はじめに

 いうまでもありませんがデジタルボリュームは、信号の持つ情報量を減らします。つまみが9時とか10時の向きなら、16ビットしかないデジタルデータを4~5ビット減らした状態です。その状態で聞いているのですから、平板的な抑揚のない音に聞こえるのもうなずける気がします。

 と記すと、それらしく感じられますが、単純にビット数を減らした音とは違います。本当のところは、ボリューム演算が音を劣化させています。このため、PCやスマホの出力を聞いているときには劣化に気づきません。

 だからといって、デジタル信号をフルにD/A変換したとしても、アナログにも問題は山積です。

 一般的な機械式ボリュームは、すべての信号にガサついた音を付加します。絞ると透明感を失い、底が埋められてしまうかのようなダイナミックレンジを失った音となります。音量だけでなくクオリティも絞られます。せっかくアンプを工夫しても、肝腎のところで台無しにされてしまいます。

 このガサつき感は、接点の接触圧変動と摺動子の振動がもたらすと考えています(第1図(a))。減衰量が同じになるように固定抵抗で分圧すれば(第1図(b))、たとえ1/4 Wのカーボン抵抗で組んだとしても、高級ボリュームほどには音質劣化を招きません。

 もちろん、ロータリースイッチにも接点はあります(第1図(c))。スイッチによって音は変ります。安価なロータリースイッチは、安物のRCAピンジャックよりも痩せた音にしてくれます。がっしりとした構造に支えられた接点に、適切な接触圧を加えられる機構がなければ、生気のないつまらない音になってしまいます。

 たしかに、電子ボリュームICには、接点はありません。でも、その中身は抵抗とアナログスイッチです(第1図(d))。不純物半導体によって製作されるCMOSスイッチには、非直線性があります。さらに同じく不純物半導体で作られるIC上の抵抗にも、電圧依存の非直線性があります。このため、単なる電子ボリュームICでは機械式ボリュームを下回る痩せたギスギスした音にしてしまいます。

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第1図 音量調節回路

(a) ボリューム (b) 減衰量が同じになるように固定抵抗で分圧する (c) ロータリースイッチを使う (d) 電子ボリュームICの中身

 この“常識”を覆してくれたのが新日本無線MUSES 72320電子ボリューム(写真A)でした。非直線性をネットワーク構成によって徹底的に排除し、さらに信号レベルに応じた3段構成とすることによって、電子ボリュームとは思えないクリアな音を聞かせてくれます。EVR-3によって、機械式ボリュームはもちろんのこと、高級スイッチに無誘導巻線抵抗器を組み合わせたアッテネータにも匹敵するクオリティを聞かせてくれました。

 今回は、EVR-323 / 320シリーズの音質をミニマルコストでお楽しみいただける電子アッテネータの製作です。

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写真A MUSES 72320を搭載したEVR-320アッテネータ基板

EVR-320

 EVR-323 / 320シリーズの標準グレードEVR-320は、MUSES 72320を採用したEVR-3の直系です(写真B)。以下の改良を積み重ね、音のクオリティは、EVR-3を上回るものにしています。

  1.電子ボリュームIC周りのプリントパターン見直し

  2.基板間のスペーサをM3にサイズアップして4本に増強

  3.NF抵抗にVishay-Dale NS-2Bを採用。後付け抵抗によるゲイン設定を可能に

  4.デジタルボリュームICとバッファアンプへのレギュレータからの配線見直し。それぞれにASC X363パスコンを採用

  5.アナログ系とデジタル系電源の分離

  6.基板間接続にPreci-dip社ピンソケット採用

以上はすべて試聴を重ね、効果を確認して採用しました。

 あるいは、音には直接関係しませんが、装置への組み込みのしやすさと使いやすさも向上させています。

  7.高さを41 mmに。高さ50 mm(外形)ケースへの収納を可能に

  8.パネルへの取り付け穴の位置変更によって、直径20 mmのツマミを使用可能に

  9.パネルへの取り付け用に小頭ネジを標準付属

  10.インタフェースにMolex社picoflexフラットケーブルコネクタ採用。EVR-BALCONとの近接配置を可能に

  11.電源供給ラインにMolex社C-Grid Ⅲコネクタ採用。ケーブルアセンブリを付属。

  12.コントロール+アッテネータ、バッファ、レギュレータ基板構成による自由な仕様設定。デジタルコントロール基板のアナログ系からの分離

  13.コントロールプログラムの改良による操作応答向上

 さらには、耐久性の向上も図っています。

  14.カップリング及び基準電源用にニチコンRNS導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサ採用

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写真B EVR-320-8820-NC

EVR-320-8820-NC

 EVR-320-8820-NCでは、MUSES 72320を搭載したアッテネータ基板に、MUSESオペアンプの廉価版(といっても“ふつう”のオペアンプの数倍のお値段)のMUSES 8820を載せたバッファ基板(写真C)を組み込んでいます。

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写真C 8820バッファ基板

 MUSES 8820はMUSES 02と同じくバイポーラ入力の2チャネル・オペアンプです。ただし、あのマニアックなこだわりで作られたMUSES 01 / 02のように、ひとつのパッケージに二つのチップを組み込んではいません。一般的なオペアンプと同じく、2チャネルの回路を載せた一つのチップとなっています。

 それでも、“ふつう”のオペアンプのような、詰まって伸びのない、いわゆる「オペアンプの音」はありません。ですけど、02と比べると、私の聞くところ、かなり“ふつう”に近い。まあ、そこは我慢しましょう。3,000円の価格差は大きい。

 オペアンプを我慢するとなると、CRも節約です。半導体(能動素子)と受動素子のどちらが音に影響するかといえば、動くほうです。ウソだと思われるのでしたら、比較試聴してみましょう。オペアンプよりもCRに投資するのはコスパが悪い。

 私が聞いた限りでもっともよくない抵抗は、パワートランジスタのエミッタの先によくみかける白い四角いヤツです。あれとNS-2Bの音の差は、同じ巻線なのに月とすっぽん、天と地です。

 ですけど、その差よりも、三重拡散とエピタキシャルのトランジスタの差は大きい。受動素子は、すべてのソースに対して素子固有の音を付け加えて再生音を痩せさせますが、能動素子は、音の輝きも質感もアタック感もやわらかさも、すべてを半減させて音楽をつまらなくします。オペアンプも能動素子です。内部には多数のトランジスタが構成されています。

 つまりは、単体トランジスタと同等以上のクオリティの差を聞かせてくれます。

 ですから、8820バッファ基板では、3 WのNS-2Bは諦め、1/4 WのタクマンRAY25を使用しました。ですけど、単なるコストダウンではありません。これを切り取って、他のより大きな、具体的にはNS-2Bの大きさまでの、抵抗に交換できるようにしています。

 また、パスコンも妥協です。メタライズド・ポリプロピレンは諦めてポリエステルとしています。ですが、NF抵抗と並列に入るNFキャパシタは妥協できません。NF回路は、アンプの特性だけでなく音にも大きく影響します。ここは、わずかな容量ですが、上位バージョンと同じディップマイカを使用します。“ふつう”のメーカー製アンプでは積層セラミックが使われていますが、あの音は、あり得ません。誘電体のヒステリシスが、独特のひずみ感を付け加えます。もっとも、外耳道に突っ込むタイプのイヤホンのほうが、ひずみは大きいですね。アレで試聴したのではわからない。

レギュレータ構成

 レギュレータ回路も“標準”タイプを使います。この“標準”と“アドバンスト”の違いは、基準電圧安定用ASCと逆接続ダイオードのなしありです。どちらも回路は同じ、表面実装タイプの431シャントレギュレータNJM 7400を基準電圧に用いた1石レギュレータです。

 このレギュレータ、常識的には第2図(a)のように接続します。ここでR1とR2で分圧した電圧は、NJM 7400内部の基準電圧と比較されてシャント電流を決定します。つまり、この接続では、出力±Voutの電圧を一定とするようにコントロールします。

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第2図(a) 常識ある設計者ならこうする

 ところが EVR-323 / 320 の設計者は何を血迷ったのか、制御用トランジスタのベース電圧をコントロールしています(第2図(b))。制御用トランジスタはエミッタフォロワとして働きますから、エミッタ電流が大きくなればベース・エミッタ間電圧も大きくなります。つまり、ベース電圧を一定にコントロールしても、出力電圧は変ります。それなのに、第2図(b)のほうが、音はよい。にごりが減るというか、透明度がアップします。第2図(a)の回路では、シャントレギュレータの音にフィードバックの音が付け加わるように聞こえます。

図2b.png

第2図(b) 何を血迷ったのか…。

 本音を語れば、第2図(c)のシャントレギュレータがさらによい。制御用トランジスタによる色づけをなくして、よりクリアな音になります。ですけど、入力電圧に応じて直列抵抗R3の値をシビアに調整しなければなりません。これでは、EVRを簡単に扱えなくなってしまいます。ですので、ここは妥協です。

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第2図(c) こうしたかったのだが…。

電源フィルタ基板

 さて、第2図のレギュレータ回路の(a)でも(b)でも(c)でも、電源トランスを変えれば、あるいは整流ダイオードを変えれば、はたまた電源フィルタのキャパシタを変えれば、音は変わります。ですからネジ端子のケミコンを使いたいところです。が、あれは値段もお高い。それよりも外形がでかい。コストと同時に、ケースもミニマルにしようと考えて、タカチUC17-5-12DDケースありきで設計していたのですが、どう考えても入らない。

 でも、パーツを並べてみると、EVRのうしろにスペースが空いている。ここにフィルタキャパシタを入れてやろう。と考えて電源フィルタ(平滑)基板を作りました(写真D)。SKEVR-RECTIFIERとSKEVR-FILTERの2枚の基板を重ねて、Φ10×h 20以下のケミコンをプラス・マイナスそれぞれに11本ずつ載せます。

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写真D 電源フィルタ基板

左:SKEVR-RECTIFIER、右:SKEVR-FILTER

 ここは定格電圧25 V以上の、お好みのケミコンを選びましょう。本機は、ニチコンFG 25V 330μFを用いました(写真E)。日ケミKMHのブロックコンよりは広帯域ですが、あのネジ端子の中域の厚みはありません。それでも、いかにも「オーディオ用」的なドンシャリ感はありません。11パラになりますから、容量は3630μFです。15000μFのKMHとくらべると1/5ほどですが、100 mAも消費しない回路に15000μFを入れる設計のほうが尋常ではない。ふつうの容量です。ちなみに、この状態でのリプル電圧は約60 mVでした。

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写真E FG 25V 330μFを載せて完成した電源フィルタ基板

左:SKEVR-RECTIFIER、右:SKEVR-FILTER

 せっかくですから、整流ダイオードも載せられるようにしました。デジタル系のダイオードにはこだわりませんが、アナログ系は音に効きます。ここは、シリコンカーバイド(SiC)のアタック感を聞いて欲しい。いわゆる立ち上がりの速い音ですが、それ以上に、音が消えるときの減衰感がよろしい。

 逆回復特性よいと音がよくなる、との短絡的説明は信じていませんが、SiCのショットキーバリアダイオード(SBD)は、Siに比べてn層を薄くできます。このため、逆バイアスとなった瞬間にn層に留まる電子は少なく、したがって、逆電流は小さく、リカバリー時間は短くなります。それがなぜ音に関係するのか、短絡的説明では述べられていませんね。でも、説明など、どうでもよい。SiC-SBDは細かな違いを際立たせてくれると感じます。

 基板の面積が限られますので、ここはNJD 7002を用います。おそらくグラムあたり単価で考えたら本機の中でもっとも高価なパーツでしょう。でも、投資する価値はあります。さらには、逆方向ダイオードも載せられるようにしました。まあ、こちらはコストダウンのためにケチってもよいでしょう。そうするときには、SKEVR-RECTIFIER基板の真ん中のD5とD6を省きます。

 NJD 7002のアノードとカソードは、それぞれ4本のリードがありますが、1本では電流容量が足らないためです。ですので、4本のリードの間にブリッジができても、まったく問題ありません。

 デジタル系には30 V以上のダイオード2本と、Φ8サイズの16 Vのケミコン1本を用いてSKEVR-RECTIFIER基板上に整流回路を構成できます。なお、本機では電源スイッチのLEDにDCを供給するため、SKEVR-VDD基板のほうに整流回路を載せています。

 以上、電源フィルタ基板を組み合わせたEVR-320-8820-NBを写真Fに示します。型番の最後のNBが電源フィルタボード付き、NCは標準電源基板です。

(ラジオ技術2021年3月号の写真は組み合わせを間違っていました。こちらが正しい写真です。訂正してお詫びを申し上げます)。

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写真F EVR-320-8820-NBの電源フィルタ基板にケミコンを取り付けたところ

電源回路

 本機の回路を第3図に示します。アナログ系電源トランスは、TOEI J24015を用いました。プラス・マイナス独立電源トランス構成です。プラスとマイナスの信号電流のトランスコアにおける磁気干渉をなくして、クッキリとした音像を再生します。重量あたり単価で考えたら、もっともお安いパーツですから、プラスとマイナスは分けましょう。

 というのは半分冗談(半分は本気)で、内寸44 mmのケースに3 mm厚シャーシを使うと、EIコアでは入るものがない。かといって、あのフニャフニャした音のトロイダルは使いたくない。ですので、この構成としました。まあ、音がよくなる方向ですから、それでよし。

 デジタル系電源トランスは、豊澄HP-510をSKEVR-VDD基板に載せました。スイッチングレギュレータのモジュールを使えばお安くできますが、音も安っぽくなってしまいます。デジタル系といえども、アナログ電源としなければザワついた底の浅い音になります。前述の理由で、整流回路もSKEVR-VDD基板に構成しています。ダイオードとキャパシタは銘柄不問です。本機では、日本インター11EQS04とルビコンWXA 16V470μFを用いました。なお、SKEVR-FILTER基板のD1とD2を載せないときには、ここの短絡を忘れないでください。

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第3図 本機の回路 

ヘッドホン再生用にゲインを設定する

 写真Bに示したように、アンプの載るバッファ基板には、抵抗を追加してゲインを設定できます。前述のEVR-3からの音質向上策6項目のうち、この第3項目のNF抵抗を外付けが、もっとも効いたように思います。

 本機では、1.8 kΩを用いて+10.6 dBとしました。ヘッドホン・アンプだとこのくらいがちょうどよいでしょう。むやみにゲインを高く設定して、それを絞るのは、EVR-323 / 320でもお勧めできません。ここは、タクマン音響用金属皮膜抵抗1/2 WタイプのRAY50を入れました(写真G)。

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写真G ゲイン設定抵抗を入れた8820バッファ基板

 以上、使用部品を第1表に示します。

​第1表 使用部品

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組立

 タカチUC17-5-12DDケースの、フロントパネルとリアパネル加工を第4図に示します。まずフロントです。電源スイッチは、マルツで見つけたGB-PSW-ALED-WHを使いました。両切りではありませんが妥協しましょう。まあ、複数の機器をつながなければ、片切でも音に影響はありません。このスイッチ、プッシュ部が私の指にはちょっと小さいのですが、使うには問題ありません。リング状にLEDが光ってかっこよい。なによりお値段が安い。ヘッドホンジャックはスイッチクラフト#12です。試した限りのベストです。金メッキにだまされては音を損ないます。

 次にリアです。RCAジャックはアムトランスのAJ-320です。これより安いものもありますが、試した限り、いずれもシャキシャキした音がして使いたくありません。ACインレットは、ノンフューズブレーカとセットになったSK-NRP1 (1A) です。フューズよりは、くっきりとした音がしますのでお勧めです。

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第4図 フロント&リアパネル加工

 シャーシは手元にあった3tのアルミ板100×100で作りました。シャーシ加工を第5図に示します。穴はすべてM3のタップをたてて、上からネジを締められるようにしました。タカチの取付金具UCK-P27は、この上にシャーシを載せるように設計されていますが、この金具側のネジを3.2のドリルで拡張して、シャーシが下になるように取り付けます。ただし金具を片側しか取り付けられませんので、シャーシの反対側が浮き上がります。そこで、シャーシに40 mmのM3スペーサを立てて、上カバーで押さえました。上カバーの内側には3 mm のソルボセインを貼り付けて押さえつけています。

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第5図 シャーシ加工図

 以上、シャーシ全景を写真Hに示します。

アンカー 1
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写真H シャーシ全景

 MUSES 72320を活かすためのミニマル構成です。コストミニマルを心がけましたが、重要なところには投資しています。その甲斐もあってか、ずっと鳴らしていても、耳につく嫌な音はありません。MUSES 72320の透明なサウンドを楽しめます。ですけど、先月号の電子アッテネータと並べて比べると…。いささか色彩感に欠けて、アタックが弱いかな。

 う~ん、もうちょっとなんとかしたい。となりましたら、まずは、オペアンプをMUSES 01 / 02にグレードアップしましょう。MUSESの看板を背負っていても、さすがに、8820では非力です。その次に、バッファボードのCRをよいものに…。

 とアップを続ければ、前作になってしまいますね。“入門用” として、そこいらのボリュームを凌駕するサウンド・クオリティ。このコンセプトは十分に達成しています。ただ、ヘッドホン・アンプにするには弱いかな。次は、ヘッドホン・アンプ基板を使ってみたいと思います。

​(掲載 ラジオ技術2021年3月号)​

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