EVR-3とMUSES 03を用いたお薦めできるくらいには音の良いEVR-3 type II ヘッドホン・アンプ2+

はじめに 電源トランス再々考
ラジオ技術2019年1月号には、パワー・アンプの電源トランス探索結果を報告しました。良いトランスが見つかったのは嬉しいことですが、何年もの間、トランスのチェックをサボっていたことは反省しています。もっと良い音で聞けていたのに。
久々にいろいろと電源トランスを聞きましたが、それぞれにトーンがあります。アンプ回路に供給されるパワーは、すべて電源トランスを通過するのですから、変わらないわけがありません。
電源トランスを云々すると、「商用電源によって変わるはずだから、こだわっても仕方ない」との意見が飛んできます。ですが、「はず」という人は、100パーセント自分では聞かない人ですね。どうして聞かない人に限って、聞く人に文句を付けたがるのですかねえ。商用電源によって音は変わります。でも、電源トランスによっても変わるのですから、良い方が聴いていて楽しい。それだけのことです。
話はそれますが、部屋に200 Vの配線を引き込み、そこで200 V : 100 Vトランスを使って下げた方が、コモンモードノイズが減るので「音が良くなる」との説を前世紀の頃に読みました。電柱の上のトランスでは三相6600 Vから200 Vに落としますが、そのうちの一相が家に引き込まれます。その一相の中点は接地線となっています(単相三線式、第1図)。この3線の中性線と一方の線間を100 Vとして使いますので、商用電源は「シングルエンド」です。これに対して200 Vは「バランス」ですから、こっちを使えばノイズが減るとの理屈です。

第1図 単相三線式
まあ、オシロスコープで観測するとノーマルモードノイズも山のようにあります。ですので、この理屈を信じてはいません。
でも、「良くなる」といわれれば、なんでも試す性分です。
以前の勤務先で廃棄になった装置から1 kVAのシールドトランスを取り出しました。そのトランスの一次側は100 V×2巻線でした。並列に使えば100 V : 100 V、直列に使えば200 V : 100 Vになります。
で、その頃住んでいたところでは、200 V は部屋には配線されてなかったので、100 V:100 Vで使用しました。入れると帯域感は狭くなるものの、クリア感がアップして、それを上回るメリットがあると感じていました。
ところが、いま住んでいるところでは、100 Vも200 Vも音が変わったようには感じられません。それよりも、シールドトランスの音が付け加わるのが気になります。帯域が狭くなるような窮屈な感じです。ですので、いまの部屋では、シールドトランスを使わないで、直接商用電源の100 Vのシングルエンドで使うのが最良です。
結論からいえば、電源に関しては、結果がどこでも当てはまるものではないと考えます。商用電源は、住んでいるところの違いが少なからずあります。「バランスかどうか」とひとつのことだけで音は決まりません。そんなことよりも、トランスのほうが音を変えると経験しています。きっと柱上トランスによって音は変わるでしょう。ただ、おいそれと引っ越しはできませんから、住んでいるところでのベストを求めれば良いのです。
電源トランス再々探索
では、2018年7月号ヘッドホン・アンプの電源トランス顛末です。写真Aに比較したトランスを示します。写真の左から、豊澄電源機器HP-098です。二次巻線は9-0-9 V, 0.08A。ノグチPM-09X02と比べると小さくて頼りなさそうに見えますが、音は頼りなくはありません。しっかりとした音像を聞かせてくれます。中低域は。ただ、高域にキツさというか、ガリガリとした荒れた感があります。
つぎにAVB1.5/2/9、ドイツのBLOCKです。容量は1.5 VA、二次電流は0.083 A×2です。一次電圧が115 V仕様ですので、100 Vでは定格電圧に対して15 %の不足です。余談ですが、カタログには無負荷時電圧、無負荷時損失、効率、絶縁電圧などの実測&規格値が記されています。さすがはドイツ製。でも、残念ながら100 Vの日本では値は異なります。
AVB1.5のトーンバランスは良好です。特定帯域を強調した感じがありません。弦楽器の柔らかさではノグチを上回ります。ただ、ちょっと平板的というか、おとなしい。平面的な感じがします。でも、これならノグチの代替にはなる。と考えて「トランスonケミコン」ボードの試作に入りました。
ただ、AVB 1.5はおとなしすぎる。だけど、あのトーンバランスは魅力です。それならサイズアップしたらどうか。と考えてAVB 2.3を試しました。型番はAVB2.3/2/9。容量2.3VA、二次電流0.127 A×2です。トーン傾向はAVB 1.5とそっくりな上に、ゆったりと鳴らしてくれます。悪くない。ノグチの代替ではなくバージョンアップ。
写真いちばん右は、RSプロ504-385です。容量も3 VAと大きい。取り寄せるとポーランド製。大きいので期待はしたのですが、音に伸びがありません。ディテールが再現されず、鈍い感じです。却下。

写真A 比較した4つのトランス
トランスonケミコンボード
写真Bに「トランスonケミコン」ボード(SKTRANS)を示します。SKTRANS はBLOCK社AVB 2.3またはAVB 1.5電源トランスを、日本ケミコンKMHなどのΦ35サイズのケミコンの上に搭載可能とする整流基板です。
トランスonケミコンによって、電源トランス、整流回路、ケミコンをひとつのユニットにまとめられます。ですので、配線がメチャ楽になります。さらには、トランスの交換試聴が楽々。AVB1.5を入手し、これなら使えると考えて基板を開発したのですが、まさか試聴に使うとは思ってもみませんでした。パワー・アンプのトランス選びも、トランスonケミコンボードを差し替えて行いました。

写真B トランスonケミコンボードを取り付けたKMH
第2図にSKTRANSの回路を示します。SKTRANS は、キャパシタボード(SKTRANS-C)とトランスボード(SKTRANS-T)の2枚で構成しました。キャパシタボード上には、センタタップ整流回路が構成されています。トランスボードを差し込む向きによって、ダイオードと二次巻線の中点(GND)を入れ替えます。ピンソケットにはPreci-dip社0.76 mmを用いています。ピン間の耐圧1000 V、ピンあたり3 Aの容量です。パソコンボードに付いている角ピンのソケットとは別物です。
トランスボードに載せた赤色(+)と青色(-)LEDは、電源の極性と、ケミコンの充電状態を表示します。整流ダイオードは、新日本無線NJD 7002を使います。やや低域が薄いのですが、中域から高域への透明感では抜群のショットキー・バリア・ダイオードです。

第2図 トランスonケミコンボード回路
アンプ構成
第3図に全体回路を示します。2018年7月号とアンプ回路は同じです。チャネルあたりMUSES 03のパラレルアンプです。以下、変更点を説明します。
電源トランスはBLOCK AVB2.3/2/9をプラスマイナスそれぞれに使用します。SKTRANSボードは、広杉計器VDB-308E絶縁型垂直取付スペーサを使用してシャーシに取り付けています。スペーサは千石電商でバラ売りしています。電源トランスの変更によって、落ち着いたバランスの、よりクリアなトーンになりました。
電源トランスの変更によって、パネル取り付け型インサーキットブレーカを入れるスペースがなくなりましたので、基板用NRPF10-1Aに変更しました。サイズは異なりますが、NRF110と音は違いません。きっと同じ内部構造でしょう。ケースはそのまま流用しましたので、3tの真鍮板で覆い隠してはいるのですが、リアパネルには取り付け穴のところが真鍮色に輝いています。
入力端子は、モガミ・ネグレックス7552に変更しました。これも若干ですが、クッキリとしたサウンドに貢献します。まあ、すべての変更が、少しずつ音を作り、そのトータルがアンプの音になりますね。

第3図 本機の回路
第1表に使用部品を示します。
第1表 使用部品

おわりに:究極=進歩が止まった
2018年7月号では編集部に「究極のヘッドホン・アンプ」などと進歩が止まったようなタイトルを付けられました。が、あの程度でノウハウを出し切るほどに落ちぶれてはいません。「究極」なんていうようでは、「音のために一切の妥協を排した」というメーカーと同じで、他に良くする手立てを知らないと白状しているようなものです。
本作も、究極には至っていない妥協はあります。でも、出し惜しみしたのではありません。ケースに押し込めなかったのです。それらの部分は、またの機会に。
(掲載 ラジオ技術2019年3月号)
